岩手大学の獣医学科に入学して3年半以上学んでみた結果,この大学について様々な良さに気づきました。
正直なところ,入学以前は「学費が安く獣医師免許さえ取れればどこでも良い」という発想でした。入試が簡単でかつ自宅から少しでも近いという条件だけで選びました。
そんないい加減な動機で入ったにも関わらず,とても良い環境だったので満足しています。今いらっしゃる先生方は人柄が良い方ばかりで,私の病気を気遣ってさまざまな配慮や心遣いをしてくれるアットホームな雰囲気で素晴らしい環境です。この大学だったからこそ,病気発症後も辞めずに最後まで通うことができる思って最大の感謝をしています。
獣医の大学受験を検討中の方に向けた記事なので,獣医の大学教育が6年の過程だとか,産業動物獣医,公務員獣医師だとか当たり前のことは省略した上でお話します。
大学関係者からのご指摘・補足,他大学学生から「うちはこうだ」と言ったご意見などお気軽にコメントください。
産業動物か小動物か
産業動物・公務員
岩手大学の特徴として第一に産業動物に強いところでしょう。
近隣に牛の牧場施設が多いという立地条件から当然のことで,これは今後も変わらないでしょう。
本州の獣医系大学では牛に関してもっとも良い環境と言っても差し支えないかと思います。
また,岩手県の特産が”短角牛”という肉用牛ですから,和牛をみる機会が多いのも特徴です。
北海道では乳牛ばかりになるのではないでしょうか。
現在の学科の方針としても産業動物に注力しています。
一般的な就職を考えた時に,産業動物獣医の業界は,小動物の業界よりも安定性,堅実性が高いです。
大きなところに就職できるので,小動物の業界のように就職先での”当たり外れ”がなく,間違いがないという意味です。
もしイヌ・ネコだけが好きというモチベーションではなく,なんとなく動物が好きだから,あるいは手に職をつけたいから,というモチベーションの方であれば産業動物獣医は良い選択です。
犬猫の動物病院業界は,ペットショップやブリーダーを批判する傾向がありますが,ペットショップやブリーダーがいないと犬猫自体の数が減り患者さんがいなくなって仕事がなくなるという自己矛盾を抱えている業界なので,現在の流れでは業界に成長性はありません。
産業動物では,食糧生産の需要は安定していますし,現在の我が国は和牛の輸出を推進しています。よって,産業動物という堅実さに加えて,特に和牛で獣医学を学ぶというのはトレンドに乗っていると言えます。
また,国立全般でそうでしょうが,公務員獣医師への就職も強いです。
国家公務員,地方公務員経験のある先生もいます。
JRAの方が講義を持つ(馬臨床学の全部や産業動物臨床学の一部など)こともあるので,ごく狭い世界ではありますが,馬の獣医希望の方にも希望はありそうです。ただ,馬に関しては私が全く詳しくないのでなんとも言えない情報ではあります。
小動物
では岩手大学で小動物を学ぶことはできないのか?と言われそうですね。
知識も技術もある先生ばかりで,学生さん思いなので小動物臨床系の研究室で真摯に励めば学ぶところは計り知れないでしょう。
ただ,”なんとなく獣医=小動物”でイヌネコのお医者さんブームとなっている今,私立は潤沢な資金を投じて高額な機材,華やかな専門性のある診療をしている状態で,そちらの方が魅力的に見えてしまうのは仕方ないことでしょう。
国立内で比較した時ですら,小動物特化の方針の国立大学もある以上,専門性で見劣りするのはやむを得ないでしょう。
見方を変えて大学病院の目線で考えてみると,”小動物特化の大学”ほど,患者さんを学生に触らせて何かあった時,大学病院の名前に傷をつけるわけにいかないわけにいかないプレッシャーが強くなる傾向にあるのかもしれません。もしかしたら,高度な大学動物病院ほど患者さんの飼い主さんも神経質で,学生に触られることを嫌うのかもしれません。
そう言った大学ではスチューデントドクター取得後の研究室所属の学生にすら動物の医療に手を出させないというところもあるそうです。
その点,岩手大学の動物病院はおおらかな飼い主さんが多い地域ですから実際に関われる機会は他の大学よりもしかしたら多いかもしれません。
つまり,岩手大学のメリットを挙げるなら以上のような,バランス感の良さが特筆すべき点だと思います。
何はともあれ臨床の技術を学びたいのであれば先生の人柄が大事でしょう。オープンキャンパスなどでどこまでお会いできるのかは知りませんが,会ってみれば岩手大学で学びたいという気になるはずです。
研究室
岩手大学では4年後期からなんらかの研究室に配属となります。
研究室の大きな問題は,その研究室の教授次第なところです。
例えばあるジャンルの偉大な権威のような先生がいたとしても,その先生一人が退職すればそのジャンルの研究はストップするし,最悪研究室ごとなくなることもあるということです。
というわけで,特別に希望の研究室,教員がいて大学を選ぶ場合は,大学受験をする直前にオープンキャンパスなどの機会に直接,あと何年先生がお勤めになるのか確認しておくことをお勧めします。受験には志望動機書も提出しないといけませんから,どういった先生がどういった研究をしているのはよくリサーチしておく必要があります。
ここでは個別の紹介は省略しますが,私が今後に期待している研究室を紹介します。なお,私は別の研究室に所属しています。
注目している研究室
昨年新設の動物介在学研究室はとても珍しいので注目しています。
まず,誤解を解かなければなりません。動物介在というと,犬猫が障がいのある子供たちや高齢者を癒すアニマルセラピーを想像しがちですが,それは人の医学や教育学の領域に近いです。
人と関わることで動物がどういう影響を受けているのか,という視点こそが獣医学らしい見方です。
今のところあまり発展していない学問領域ですが,これから徐々に発展していくことは間違いない領域です。
つまり,今のうちに学ぶことができれば,”そこそこの古参”になれる可能性があります。
岩手県では,全国的にも珍しいのですが,市街地を引き馬で闊歩するチャグチャグ馬コという郷土のお祭りがあります。この岩手県の事情に沿った研究という側面(建前)もあると思います。
逆に言えば,イヌネコはあまり期待しない方がいいです。その実,産業動物の診察が研究室の主要な作業になっています。産業動物臨床系にカテゴライズされています。
この記事で言いたいことの1つの結論は,「この動物介在学研究室に入って,新進気鋭の学問領域を開拓しつつ,卒後は産業動物獣医になる」というキャリアの青写真をもって岩手大学に入るのはどうでしょうか。ということです。
まとめ
岩手大学獣医学科についてまとめてきました。
以上のように,基本的には産業動物に重点を置いた大学ではありますが,他の各ジャンルもなんら問題なく学ぶことができます。
「岩手大学獣医学科ならではのこと」としてこの記事では動物介在学を挙げました。
もし特化した領域の勉強をしたいならば”大学”単位ではなく教授個人の単位で調べることをオススメします。
受験時点では特に考えていない,勉強しながら決めていけばいいという方でも岩手大学なら快適に過ごせると思います。
最後に
私の大学では○○だ,など他大学獣医学生からのご意見や,岩手大学の同志からのご指摘・補足,岩手大学受験を検討中の方のご質問などありましたらコメントや私のSNSへのDMなどでお気軽にご連絡ください。
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