犬猫の口腔ケアサプリとヨウ素過剰

小動物臨床

― アスコフィラム・ノドサムをどう評価するべきか ―

犬猫の歯周病予防として、アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)を配合したサプリメントに興味を持ちました。実際に、プラークや歯石の再付着を抑制する効果を示した報告もあり、食事に混ぜるだけで歯周病予防ができるならぜひ使いたいと思い調べてみました。

メリットが素晴らしい一方で、海藻に詳しい人なら「海藻由来でヨウ素が多いのではないか」「甲状腺への影響は大丈夫なのか」といった疑問が浮かびます。この点については、現時点のエビデンスだけで「安全です」とも「危険です」とも言い切れないのが正直なところではないでしょうか。だからこそ、データの読み方と実務的な判断の仕方を整理しておくことが重要になります。

まず前提として、アスコフィラム・ノドサムは褐藻の一種で、ヨウ素を比較的多く含むことが知られています。製品によって差はありますが、一般的には乾燥重量あたり0.03〜0.15%程度のヨウ素を含むとされます。例えば犬猫用で市販のプロデンでは「ヨウ素0.08%以上」と表示されており食餌に添加するサプリメントです。1gあたり少なくとも800µgのヨウ素が含まれる計算になります。小型犬で規定量を投与した場合でも、1日あたり200〜400µg程度のヨウ素が追加されることになります。

ここで気になるのが「どの程度までなら問題ないのか」という点ですが、AAFCOやFEDIAF 2024によると犬用フードのヨウ素は 1.1mg/100g(乾燥重量)が上限としています。つまり11ppmです。

では、ヨウ素過剰のリスクの論文で見ていくと、Castilloら(2001)の論文があります。この研究では、ヨウ素含有量の高い食餌を与えた子犬で、T4やFT4の低下、TSHの上昇といった甲状腺機能抑制を示唆する変化、骨への組織学的影響が観察されています。ただし、この論文を読む際にはいくつか注意点があります。対照群の手作り食のヨウ素含有量が明確でない点や、対象が成長期の子犬である点、手作り食がヨウ素以外でも不適切な栄養バランスと思われる点など一般的な臨床状況とは異なる条件も含まれています。

そのため、この研究は「この量を超えたら危険」といった上限を示すものではなく、「比較的高いヨウ素負荷では甲状腺機能に影響が出る可能性がある」ということを示したデータとして捉えるのが適切です。

Castilloらで引用されているのが、犬のヨウ素必要量として約150µg/日(Belshawら 1975)という数値で、食餌量から換算してこれよりも十分高い(KIとして)5.6mg/kg(5.6ppm)のフードは高ヨウ素食としています。(KIとしてなので分子量からヨウ素としての濃度に換算すると4.9ppm程度と思われます。)ただ、約150µg/日はもともと「これだけあれば欠乏しない」という最小必要量に近いもので、「これを超えると過剰になる」という上限ではありません。

では実際の臨床に話を戻すと、アスコフィラム・ノドサムのサプリメントを使用する際に意識したいのは、「1日量」だけでなく「食餌全体としてのヨウ素濃度」です。例えば一般的なドライフードでも、すでに数ppmレベルのヨウ素が含まれています。例えば、ロイヤルカナンでは4 – 5ppmというデータが見受けられました。そこにサプリメントを追加すると、食餌全体としてのヨウ素濃度はさらに上昇します。条件によっては、先ほどの研究で用いられた食餌の濃度に近づく、あるいはそれを上回る可能性もあります。

もちろん、これだけで直ちに臨床的な甲状腺疾患が発生するとは限りません。現在のガイドラインでも上限は11ppmと設定されていますし、基礎疾患がない症例で問題になるとは思えません。ただ、「ベースフードにすでにヨウ素が含まれているところへ、さらに追加している」という事実は、頭の片隅に置いておく必要があります。動物用医薬品ではないとはいえ、獣医師として推奨したサプリメントでの責任も考える必要があります。デメリットも含めたインフォームが必要でしょう。

こうした背景を踏まえると、アスコフィラム・ノドサムのサプリメントは「有用性はあるが、無条件に使うものではない」と考えるのがバランスのよい判断だと思います。スケーリング後の再付着抑制など、目的が明確な場面で短期間使用するのであれば大きな問題は起きにくいと考えられますが、長期連用や高用量での使用、他のサプリメントとの併用にはやや注意が必要です。また、猫や甲状腺疾患のある症例、ヨウ素制限食を使用している場合などでは、ちゃんとしたサプリなら注意書きがある通り、使用禁忌と考えるべきでしょう。

また、アスコフィラム・ノドサムを添加し、ヨウ素を調整済みの療法食(Virbac社,ETERINARY HPM®)も販売されているので、獣医師として勧める場合にはそちらの方が無難かもしれません。

アスコフィラム・ノドサムを機会に、サプリメントは「なんとなく良さそうだから使う」から一歩踏み込んで、「追加の栄養素は何があって、どのくらいの負荷がかかっているのか」を意識してみる必要があると感じました。

参考文献

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